「ぼくは泉を見つけ出した。おぼえているかい?それはジュヌヴィエーヴだ…。」フランス=アフリカ定期路線を飛ぶ郵便飛行士、ベルニス。見かけだけの安全な日常からの脱出を夢みた彼は、隠された宝を探し求めて杖をさまよわせる"泉の占者"にみずからを例えて、彷徨をつづける。飛ぶことと根付くこと、浮遊と居住という両立し難い二つのものの間で引き裂かれるベルニスは、世界と人間とを和解に導く「住まう者」ジュヌヴィエーヴを求めるが、二つの世界の隔たりは埋められることなく、悲劇的な結末へと向かっていく。サハラの中継基地キャップ・ジュビー飛行場長時代に書かれたこの処女作は、自身の飛行の体験が熟成されて、サン=テグジュペリ独自の思索へと向かう途上にあり、みずからも背反への不安をかかえて方向を模索していた若き日の作者の姿を映し出し、以後の作品にはみられない若い魅力に満ちている。
「BOOKデータベース」より