悲しみのとなりには、喜劇がある。欲望に翻弄される人間模様。子宮頚癌であと数か月の命であると知らされた日、西尾祥子は偶然入ったスナックの男たちと本能のおもむくままに、つぎつぎと関係する。不健康な肌に2時間もかけて化粧をし、毎夜病室を抜け、はげしくしつように性の悦楽をきわめる「死絵三面相」。脳溢血で半身不随の杏雲堂が、法悦の幻影にとりつかれ、性の恍惚の中で死んでいく「〓趾反張女仏」など、人間の生のすさまじさと死のあっけなさを熟知する著者の神髄をなす6編。医学部の教授選における醜悪な学閥間のあらそいを通して"男の悲しさ"をたんねんに描いた表題作「失われた椅子」を収録。
「BOOKデータベース」より