「いったいどんな場所に僕は来てしまったんでしょう」アフリカの内戦をのがれてきた男、ソロモンは、新しい友人に問いかける。家族も故郷も失くし、困難な旅を生きのびて、彼は、「はるかなる岸辺」、イングランドに辿りついた。新しい人生をはじめたいと思っていた。そう尋ねられ、途方に暮れるのは、中年のイギリス人女性、ドロシー。彼女もまた、さまざまな喪失を抱え、人生をやり直そうと思っていた。二人の間には、ソロモンに届けられた、「ここから出て行け」という村人からの憎しみの手紙の束がある。読者に届けられるのは、孤独な二人の現在の悲劇と、忘れてしまいたい過去。「なぜ」と読者は重たいこころで問うだろう。私たちと同じ小さな人間の、人間としての限界、そして苦いイギリスのいまと世界の痛みを、静かに描く、ポストコロニアル文学の傑作。
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