ナチス・ドイツ占領下、ユダヤ人への迫害が日に日に強まるパリ。ソルボンヌ大学で英文学を学ぶ二一歳のユダヤ系フランス人女性、エレーヌは、自分たちをとりまく歴史的不幸を書き記すことを自らの使命と信じて、秘かに日記を書きつづける。彼女は自分の魂をこめたその日記を、愛するジャンに宛てて綴る。彼女は迫害を生き延びられなかったが、日記は奇跡的に散逸を免れ、戦後、数々のドラマを辿って本国で二〇〇八年一月に出版され、大きな話題を呼んだ。「生きていればおそらく、キャサリン・マンスフィールドのような繊細さをもった作家になっていたであろう」(パトリック・モディアノの序文より)と評された文学的感性で綴られたこの日記は、占領下フランスにおけるユダヤ人迫害の現実を、それを生きた当事者の視点から記した史料としても、稀な価値をそなえている。
「BOOKデータベース」より