最愛の女性、久迩子が初めて私の家で夜を過した晩、それは起った。時限発火装置を使った放火であった。警察からは、その周到な手口より愉快犯などではないことを告げられた。フリーの工業デザイナーである私は、同業者から多少妬まれることはあっても、命を狙われるような覚えはない。久迩子においても同様のはずだ。それでは、誰が、何のために…。そして数日後、第2の事件が起った。その時私は、忘れていた、いや忘れようとしていたあの夏の出来事が鮮明に脳裏に甦った。全ての答えはあの時の1枚の写真にあったのだ-。運命に抗う女のために、下すことのできぬ十字架を背負った男が闘いを挑む、渾身のハード・ボイルド。
「BOOKデータベース」より