1898年4月、23歳のカレッジの女子学生ビーチャムは、神経衰弱の症状を訴えて精神科医である著者の診療所を訪れる。著者は当時の主要な治療手段である催眠を用いた治療を開始する。そして催眠下のビーチャムに接するうちに、ビーチャムとはまったく別のタイプの人格が彼女の意識下に存在していることに気づく。やがてこの人格は、数カ月を経て独立した個性を主張するようになり、驚くべきことにビーチャムの交代人格として覚醒下にも堂々と登場するようになる。この前代未聞の非喜劇は著者が現実に体験した症例であり、学界ではつとに有名な記録として知られている。多重人格について言及される際ジャンルを問わず引用される本書は、記録文学の傑作としても世界の読書人に注目されつづけてきた。真の<私>をもとめるビーチャムの不思議な旅路と、第一級の精神科医による多重人格論-世紀末に贈る異色の1冊。
「BOOKデータベース」より