ロンドンを舞台とする『白壁の緑の扉』は、ウェルズの名につねに結びつくものとは言えない寓話的色調をおびている。この作品は、ほぼ作者の自伝に則したものであるが、彼の度重なる遅疑逡巡の嘆きを越えて、われわれすべての自伝となっている。『プラットナー先生綺譚』は『タイム・マシーン』のように、第四次元という仮説の悲愴な可能性を利用している。これもまた、主人公は一人だけだ。二重人格という古来の主題のみごとな一変奏となっているのが、ある絶対的な冷酷さに支配される『亡きエルヴシャム氏の物語』である。ほかに『水晶の卵』、『魔法屋』。
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