文学はすべて媒体のなかに存在する。書き記されて初めて文学となる。世界的評価のある西洋の古典にしても、喪失という大海から偶然にも顔を出せた幸運の代物にすぎない。数知れない不幸な傑作が大海には沈んでいるのだ。失われた本はいつまでも魅惑的だ。それは想像のなかでしか完結しない。しかし、実体のない本だからといって、絶対に手が届かないわけではない。文学が家だとしたら、「失われた本についての本」である本書は、墓であり痕跡でもある。本書はもうひとつの文学史であり、存在したかもしれない本への哀歌である。
「BOOKデータベース」より