仏教の思想と民衆の世界観がどのように出会い、新しく秩序立てられていくか、その具体的様相を思想論的に描き出すこと、これが本書全体を貫く興味の中心である。材料とするのは毘沙門天で、その説話を主として考察の対象とする。時代としては、おおむね古代から中世の末頃までを念頭においている。その理由は、この期間に毘沙門天が、仏法守護神から福の神へとその信仰の中心を大きくずらしていくことと関連する。そのダイナミズムは、庶民信仰の成立そのものであり、本書の目的を達成することに格好の材料を提供すると思うからである。
「BOOKデータベース」より