朱子(1130‐1200)がめざした新たな学問とはどのような歴史的背景を踏まえ、何を追究したのか?歴史の現場に降り立ち、侵略や飢餓などに苦しむ人々の日常に直面した民政官たち、母権としての「母皇」が国政の中枢において「国権」を簒奪しようとする深刻な危機感、これらの現実に向き合って営まれた苦心と創意が、政治を本源とする経学の形成過程にいかに織り込まれていったか。民政官、母権、馴致、現実をキータームにして、著者は思想の誕生する姿を広範な文献を駆使して生き生きと描出し、中国思想研究に新しい地平を切り開いた。皇帝専制、家父長制的支配、家産官僚という学術用語は「皇帝-吏」関係を絶対的な命令者と服従者として捉え、そこには独自の内面性を有する皇帝や吏は存在しえない。自己の馴致(修身)を核心にし、物事についての知の精度を磨き、民生の現場の安寧に取り組むことを通して学へと高まっていく中国思想の本質に迫る。
「BOOKデータベース」より