日本とイスラムを結ぶ、文化の失われた環を探って、中東とヨーロッパ、中東と東アジア、二つの文化交渉がしるした、事物・詩想・説話の壮大な伝播の回廊を描く。人びとの美意識と時空観と宇宙像を背後に隠した三つの「もの」-薔薇水、数珠、水時計。死生観と宗教にまつわる想像力の微細な相違を語る二つの詩的イメージ-火蛾、葡萄樹下の埋葬。社会生活上の規範意識と上昇願望が託された二つの物語類型-橋の上の宝の夢、走れメロス。極東に達するまでに、これらがたどった伝承の痕跡は、日本文化とイスラム文化の知られざる関係を明るみに出すとともに、中東とヨーロッパ、二つの文化圏の、根茎のようにからまりあった影響と相互浸透の歴史を如実に物語っている。
「BOOKデータベース」より