焦土にバラックが建つ終戦直後の東京。「変わっていく街を記録しておきたい」と、色鉛筆やペンを手に、ひたすら町を歩く二人の若者がいた。後に、黒沢明作品など数々の傑作映画を支える美術監督、村木与四郎と忍だ。スケッチしたのは、瓦礫だらけの焼け跡、雨露をしのぐだけのバラック、路地にひしめき合う露天商。長屋、芸者置屋、井戸ポンプ、竹のはしご…。映画に使おうと寸法を記したうなぎ屋の厨房もあれば、ふと目を留めた家の物干しもある。盛り場の看板を色合いも忠実に描き、飲食店では張り紙の粋な惹句と値段を記す。駒込、新宿、新橋、蒲田、神楽坂、上中里、浅草、銀座。一九五〇年代後半までに描いた町の風景と、それにまつわる思い出話に、時代が置き忘れた暮らしがよみがえる。若かりし頃、戦争のこと、映画のこと、そして黒沢のことを余すことなく語りながら、近くて遠い昭和の日々を散策する一冊。黒沢映画の未発表デザイン画と製作秘話も満載。
「BOOKデータベース」より