本書が総じていえることは、その社会の発展はテクノロジーの進歩のみでなく、むしろ発展の鍵を握るのはその社会の価値体系にあることを指摘してきたことにある。それを現在起こりつつある近代産業文明の行方の中で位置づける視点から論を進めてきたものである。近代合理主義、啓蒙思想やこれらに発する物質文明、進歩主義がはっきり認識されるようになり、自然や環境を守るための個々の具体的な方策もさることながら、自然観や環境倫理の確立、意識の醸成が改めて急務となっている現在、日本においても自然と人間との関係、ことに近現代世界の状況を一応ふまえた上で、地球市民として支持され、かつ共感されるような世紀を超え息の長い羅針盤をつくることが何より必要ではなかろうか。いまの状況をもって直ちに日本の将来を過大評価することも、逆に過小評価することも適切ではなかろう。
「BOOKデータベース」より