ラジオ体操は1920年代に簡易保険事業の一環として衛生環境向上をめざして創始されたが、同時に、日本が欧米に伍する国力をつけるために、国民の身体を西欧的基準にしたがって壮健にするという役割をも背負わされていた。急速な西欧化のなか、前近代の日本のポリクロニックな時間軸は一掃され、さまざまな分野で西欧的モノクロニックな時間軸が導入される。毎朝定時に規則正しくおこなわれるラジオ体操は、そうした政策の一翼を担っていたのである。さらには、日本全国を同時に動員できるラジオという画期的なメディアを利用したことによって、戦後に、戦時下ファシズムの象徴であったという嫌疑をかけられることにもなる。しかし本書はそうした単眼的な見方とは一線を画し、史料を精査・考証しながら、ラジオ体操をとおして近代日本の相貌を克明に描き出す。
「BOOKデータベース」より