時は1870年8月16日午後2時、舞台は第三共和政前夜のフランスの片田舎。定期市が今やたけなわである。…普仏戦争における最初の敗北の報せが届くと、噂の交錯、政治に関する表象の単純さ、昔の秩序と過去の災厄がよみがえるのではないかという強迫観念、そして君主ナポレオン三世に対する愛情などの諸要因があいまって、農民たちは奇妙で名状しがたく耐えがたい残虐行為にはしることになる。突然、群衆によって捕らえられた一人の青年貴族アラン・ド・モネイス。弱々しくて若禿げの、いかにも見栄えのしない32歳になるこの独身男は、「共和国万歳!」と叫んだという嫌疑をかけられて、二時間にわたる拷問を受けた挙げ句、村の広場で火あぶりにされた。農民の怒りが引き起こした虐殺事件としては、フランス最後のものとなったこの事件とは一体何であったのか?著者は「人喰いの村」の事件に、「群衆の暴力と虐殺の論理」「集合的感性の変遷」という主題を立てて精密な解読を施してゆく。
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