死刑には人間としての感情のかけらもない。人間のもつ名誉や尊厳を完全に払拭した死があるのみである。国家に許される処罰は、あくまでも人間の権利のなかで行なわれるべきであって、凶悪な犯罪者が人間の権利をこえたことを根拠に、その犯罪者よりも品位を落としてまで国家が人を殺すことが許されてはならない。数万年の人類の歴史の化石を死刑にみる。その死刑に現代的感覚としての根拠などあろうはずがない。ところが死刑は存続しつづけている。それはなぜなのか。その死刑の虚構と不条理を人類の多年にわたる思索の集積を通しでここに再現するものである。
「BOOKデータベース」より