教養は何に役立ち、どのように身につけるのか。真の教養と偽りの教養はいかに区別できるか。今日まで多くの教養論が語られてきたが、近年の大学改革においてさえ教養教育の理念は確立されていない。「教養とは何か」という問いは「人間とは何か」という問いの中に位置づけて初めて意味をもつ。教養が何であるかは人間が何であるかを、人間が何であるかは人間の究極目的が何であるかを解明せねばならない。教養課程を専門教育の準備と見なす誤解や、教養を手段化して人間から教養を切り離してしまう教養主義を批判し、教養とは様々な知識や技能を人間の目的に向けて全体的に秩序づけ人間本性の実現を目指すもので、すべての成人が生涯に亙って身につけるべき普遍的価値であることを明らかにする。教養の原型はルネサンスのヒューマニズムにあるが、本書は中世を代表する思想家との対話を通してキリスト教ヒューマニズムの視点から人間を真に自由にする教養の意義を明らかにし、近代の人間中心主義がもつ教養の限界を克服しようとする試みである。
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